MaaS(マース)とは?導入メリットと日本の課題・事例を解説
2025/05/01⚫︎ DX用語集
MaaS(Mobility as a Service)とは、目的地までの最適な移動手段・ルートの検索・予約・決済を一括で行えるサービスのことです。メリットや導入事例を解説します。
MaaS(マース)とは、目的地までの最適な移動手段・ルートを導き出し、予約から決済まで一括で行えるサービスのことです。
フィンランドの取り組みが発端となり広まったMaaSは、日本においてもさまざまな企業や自治体が導入を始めています。
MaaSの概要と広まった背景、メリット・デメリット、課題、導入事例を解説します。
- MaaSとは
- MaaSのメリット
- 1. 移動手段を確保できる
- 2. 渋滞が緩和される
- 3. 環境へ配慮できる
- 4. 観光地の活性化につながる
- 5. 移動の利便性が向上する
- MaaSのデメリット
- MaaS導入の課題
- 1. データの利活用が必要
- 2. 法律による規制がある
- 3. 地域ごとに状況が異なる
- MaaSの事例
- まとめ
- アジアクエストができること
MaaSとは
MaaS(マース)とは、「Mobility as a Service」の略称で、利用者の移動ニーズに対応し、鉄道やバスなどの複数の移動手段を最適に組み合わせ、検索・予約・決済等を一括で行えるサービスを指します。
従来であれば、移動する際にルートを検索し、タクシーやバスなどの各交通手段を予約したりそれぞれに料金を支払ったりする必要がありましたが、MaaSが導入されると、アプリひとつで検索から決済まで完結するため、手間がかかりません。
日本政府も活用を推進しているMaaSの定義は定まっていませんが、2015年のITS世界会議で設立された「MaaS Alliance」では、「MaaSは、いろいろな種類の交通サービスを、需要に応じて利用できる一つの移動サービスに統合することである」としています。
参考:MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について (国土交通省)
MaaSが広まった背景
MaaSが世界的に広まった背景には、フィンランドが2016年に行なった取り組みがあります。自動車の利用率が高かったフィンランドでは、交通渋滞や二酸化炭素の増加が問題視されている状況でした。
問題解決に向けて、フィンランド・ヘルシンキのベンチャー企業がフィンランド運輸通信省などの支援を受けながら世界初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」の提供を開始したことで、公共交通機関の利用率は48%から74%にまで増加し、自家用車は40%から20%に減少しました。
フィンランドのMaaS導入結果を受け、世界的にMaaSへの関心が高まり、日本においても各企業や政府のMaaSに関する取り組みが加速しています。
参考:次世代の交通 MaaS(総務省)
MaaSの統合レベル
MaaSの統合レベルは、スウェーデンのチャルマース大学の研究者によって4段階にわけられています。
レベル | 段階 | 概要 |
4 | 政策の統合 | 都市計画や街づくりなどの政策に活用されている状態。 |
3 | サービス提供の統合 | 公共交通機関だけでなくレンタカーやタクシーも利用可能で、料金体系も定額サービスやパッケージ型などで提供されている状態。 |
2 | 予約・決済の統合 | 複数の移動手段の予約や決済をひとつのアプリから一括で行える状態。 |
1 | 情報の統合 | 目的地までの最適なルート検索はできる状態。 予約や決済は一括でできない。 |
0 | 統合なし | サービスが独立しており、統合されていない状態 |
2025年3月時点での日本のMaaSレベルは、1から2へ移行している途中といえます。交通ルートの検索アプリやサイトでルート検索は可能ですが、ひとつのアプリで予約から決済を行える段階には至っていません。
日本のMaaSレベルが2になるのは、まだ時間がかかると予測されます。
参考:MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について (国土交通省)
1.移動手段を確保できる
高齢を理由に免許を返納する人が増えたり、人口減少に伴う公共交通機関の運転者が不足したりして、移動手段の確保が難しくなってきている地域があります。
MaaSが導入されると、目的地までスムーズに移動できる手段を確保できるため、自動車の有無に左右されずに目的地まで行くことや、既存の公共交通機関の効率的な活用が可能となるでしょう。
2.渋滞が緩和される
MaaSが普及した場合、公共交通機関でのシームレスな移動が可能になります。フィンランドの「Whim」のように定額でも利用できるようになると、手軽さや利便性の高さから公共交通機関での移動が増えるかもしれません。
公共交通機関の利用が増えると自家用車の利用が減るため、渋滞の緩和につながるでしょう。また、路上駐車による交通妨害も減少し、事故も起きにくくなると考えられます。
3.環境へ配慮できる
自家用車の利用減少に伴い、排気ガスも減少することで、環境へ配慮できる点がMaaS導入のメリットのひとつです。
自動車の排気ガスには、二酸化炭素や一酸化炭素などの化学物質が含まれており、大気汚染や地球温暖化などの環境問題を引き起こします。現在、地球温暖化などの環境問題は深刻化しているため、MaaSの普及で環境問題が改善することが期待されています。
4.観光地の活性化につながる
年齢や地域性などで移動手段を確保できない人にとって、MaaSの導入は移動範囲の拡大と頻度の増加につながります。
移動する人が増えれば、消費や購買、施設利用などによって観光地が賑やかになり、活性化するでしょう。
また、MaaSによって移動手段を手軽に確保できると、土地勘のない観光客でも迷いなく目的地に辿り着くことができます。
5.移動の利便性が向上する
ひとつのアプリで最適なルートの検索・移動手段の予約・決済までできるMaaSは、移動の利便性が向上するメリットがあります。
移動手段ごとに検索、決済する手間がかからず、パーソナライズされたサービスを受けられるため、効率的かつ満足度の高い移動が可能です。
移動だけでなく施設の利用等の予約・決済も行えれば、さらに利便性が増すでしょう。
MaaSのデメリット
導入メリットの多いMaaSですが、デメリットもある点に注意が必要です。
下記2つのデメリットについて解説します。
- 自動車業界にネガティブな影響がある恐れがある
- デジタル・ディバイドが広がる恐れがある
1.自動車業界にネガティブな影響がある恐れがある
MaaSの導入によって公共交通機関が主な移動手段になると、自動車業界にネガティブな影響が出る恐れがあります。
自動車製造業は、日本経済における基幹産業であり、自動車関連の就業人口も多いです。「自動車」という移動手段の需要が少なくなれば、経済面で損失が生じることや、雇用面で人員整理が行われることなどが考えられるでしょう。
一方で、自動車業界はカーシェアリングや自動運転などでMaaSの導入に対応してきており、これまでとは違うビジネスの在り方を模索しています。
2.デジタル・ディバイドが広がる恐れがある
オンライン上のサービスであるMaaSの普及は、デジタル・ディバイドを広げてしまう恐れがあります。デジタル・ディバイドとは、インターネットなどのデジタル技術を使える人と使えない人の間に生じる格差を意味し、「情報格差」とも呼ばれます。
例えば、インターネットに不慣れな高齢者は、MaaSを適切に扱えず、利便性を享受できないかもしれません。
MaaSを使える人だけが利用するのではなく、MaaSを使いたい人、必要とする人が適切に活用できるように、デジタル機器が苦手な人にも丁寧に使い方を教えるなど、配慮ある取り組みが必要です。
MaaS導入の課題
人々の移動に対する利便性向上が期待できるMaaSですが、導入には3つの課題があります。
- データの利活用が必要
- 法律が整備されていない
- 地域ごとに状況が異なる
どのような課題があるのか、解説します。
1.データの利活用が必要
最適なルートの表示や運賃の一括決済をするには、交通事業者がそれぞれデータを開示・共有する必要があります。
しかし、日本は民営の交通事業者も多く、積極的なデータ共有が難しい状況です。
データの共有や利活用が進まないと、MaaSの導入や発展につながらないでしょう。
2.法律による規制がある
令和5年(2023年)12月に行われたデジタル行財政改革会議において、地域社会の移動手段不足に対応するため、道路運送法第78条に新たな仕組みの創設が決定されました。
決定によって、一般ドライバーが自家用車で顧客の移動をサポートする、いわゆる「ライドシェア」が可能となりましたが、法人タクシー事業者の管理下のもとでの活動や、国土交通省が指定する「タクシー不足の地域、時期および時間帯」での活動など、法律による規制があります。
MaaSの利便性の恩恵を受けるには、法律のさらなる整備・規制緩和などが必要と考えられます。
参考:日本版ライドシェア、公共ライドシェア等について(国土交通省)
3.地域ごとに状況が異なる
地域によって、交通事情や道路状況、住んでいる人の年齢やニーズなどが異なります。
例えば、若年層が多い地域と高年齢層が多い地域に同じアプリを導入しても、使い勝手のよさに違いが出て、一方はあまり利用されないかもしれません。
そのため、各地域が抱える課題やニーズを分析し、それぞれに適したMaaSの導入が必要です。
MaaSの事例
MaaS導入の事例をご紹介します。
利用者数を増やしたり利便性を上げたりするために施されているさまざまな工夫は、MaaSに取り組む参考になるでしょう。
【福井県】国内初のレベル4の自動運転サービスを提供
福井県永平寺町で、国内初の運転者を必要としない(レベル4)自動運転サービスが令和5年(2023年)5月より開始されました。
自動運転サービスは「永平寺参ろーど」のうち約2km、土日祝日の10時から15時の間の定時運行のため、予約不要です。
同町は、要件を満たした地元住民が運転者を務めるデマンド型乗合タクシーを導入し、利用者を病院やスーパーなどの目的地へ乗り換えなしで送迎するサービスにも取り組みました。高齢者に寄り添ったサービスのため、予約はアプリではなく、電話で行います。
参考:国内初!運転者を配置しないレベル4での自動運転移動サービスの開始について(国土交通省)
参考:新たなモビリティサービスの導入に向けたガイドブック(経済産業省)
【神奈川県】観光客をメインターゲットとして渋滞緩和を実現
神奈川県箱根町は、観光地における交通渋滞が多発しており、複数の交通手段を一括で検索・決済できるシステムもなかったため、観光客をメインターゲットとして、電車、路線バス、ケーブルカー、タクシーなどの複数の公共交通機関と施設等の利用をWebかアプリ上で予約・決済できるサービスを導入しました。
スマートフォン上で表示されるデジタルチケットを乗務員や店員に提示することで交通機関や施設を利用できる仕組みで、多様なフリーパスを提供したりチケット譲渡機能も備えたりしています。
サービスの導入の結果、公共交通機関の利用促進によって、渋滞が解消される効果を得られました。
参考:先進モビリティサービス(MaaS・AI オンデマンド交通)の導入に係る事例集(国土交通省)
【三重県】MaaSで利用者数と運賃収入の増加
三重県菰野町(こものちょう)は、コミュニティバスが低頻度運行かつ多系統で複雑であることや、タクシーの予約が朝に取りづらいことなどを課題としており、公共交通機関の利便性向上を目指していました。
課題解決策として導入したMaaSサービスは、dアカウントやLINEアカウントから予約可能で、観光・定住外国人も利用しやすいように5か国語(日、英、ポルトガル、ハングル、簡体中国語)対応とする工夫も施されています。また、視覚障がい者向けに読み上げ機能もついています。
公共交通機関を利用するのが主に高齢者のため、高齢者でもサービスを利用できるように、スマートフォン教室を開いたりサービスの利用方法の説明を行なったりしました。
MaaSサービスの導入によって、オンデマンド乗合交通やコミュニティバスの利用者数が月当たり3倍以上に増加し、運賃収入も増加しました。MaaSからの予約者が半数以上を占める状況で、配車も効率化されています。
参考:先進モビリティサービス(MaaS・AI オンデマンド交通)の導入に係る事例集(国土交通省)
まとめ
目的地までのシームレスな移動を実現するMaaSは、移動手段の確保や渋滞緩和などさまざまなメリットをもたらします。
一方で、デジタル・ディバイドが広がる恐れもあるため、インターネットに慣れていない高齢者向けに説明会を設けるなど、誰もが利用できる工夫を施すことが大切です。
企業や自治体がMaaSサービスを始める際には、事例を参考にしたり、アプリ開発の専門家のサポートを得たりすると、利用者に適したサービスを提供できるでしょう。
アジアクエストができること
アジアクエストは、お客様のDX(デジタルトランスフォーメーション)に必要なコンサルティングから、デジタルテクノロジーを駆使したシステムの設計、開発、運用までを一貫して伴走支援します。
IoT、AI、Cloud、Mobile、Web、UI/UXの各デジタル分野の専門テクノロジーチームを有し、お客様のゴールに向けて最適なプロジェクトチームを編成します。DXに関する豊富な知見と幅広い技術力により、ビジネスモデルの有効性や技術的な課題を検証する為のPoCの実施やデジタルに対応した大規模なシステムの構築まで、スピーディーな対応が可能です。
アプリ開発や各種のデジタルサービスおよび基盤の連携など多くの実績がございます。
DXの推進に課題や不安があるお客様は、ぜひアジアクエストにご相談ください。

執筆者
アジアクエスト編集部
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